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UDLR / Unfixed Silence for Sleep

 

 

UDLR / Unfixed Silence for Sleep


(ジョーク的な形式な作品だが内容は大真面目なので、4月1日のエイプリルフールにちゃんとした作品ページとして、ジャケット画像と解説を付けた形で公開する。)

 

UDLR / Unfixed Silence for Sleep

 

 

 

この作品は不固定の内容で不固定の長さのアンビエントである。しかし音楽作品として見ると、ジャケットと解説文はついているが、肝心の音楽が無い。

この「曲」の正しい聴き方は、この作品のジャケットをイメージしつつ、以下の解説の趣旨を理解しつつ、寝るということ。それはどういうことか。

 

 

 

まずは寝る前に聴く音楽の「問題点」としては、音楽それぞれで決まった内容と長さで、そして音が出ていること。

もし毎回同じ音楽で寝る場合、何日も続くと、途中で眠りにつくなら、序盤ばかり聴いて後半が分からない感じになる。日によってその睡眠地点は変わってくるだろうが、同じ序盤を何回も聞いているのは変わらないので、飽きも出てくる。

寝られない人によっては同じ曲やアルバムや個人のプレイリストなどで延々と流す人もいるだろう。もちろん、それは耳の負担がある。(眠りを感知して自動的にその再生を止める機能があればいいよね)

あとは内容の押し付け的な一面もあり、僕や同居する弟がそれぞれの音楽を寝ながら聴いていた時期もあったが、それぞれが相手側の音楽を邪魔に感じていた。たとえ小音であっても静寂な部屋には目立つ存在なのである。

 

 

 

この作品はそれらの問題点を出さないように、静寂を音楽として解釈したものである。静寂の音は音楽再生のように決まったものではないし、スピーカーから出る音ではないので耳の負担もほぼない。「変化し続けるアンビエント」として捉えることができれば決まったパターンにならないという発想である。

 

 

 

興味深いことに、「実態の無い音楽作品」は、様々な形態や解釈で存在している。以下、自分で見つけた例をピックアップしてみる。

 

「4分33秒」(ジョン・ケージ、1952年作)はクラシックコンサートで演奏されるが、その部分が全て「休み」となっている曲。簡単に言えば「無音を演奏している」ということになる。楽器音はないが周辺の状況によって毎回違う沈黙音になり、それは「コンサートでの演奏」だから最大限楽しめる(=録音された音楽作品では無意味)。その他作者の意図や反響や派生作品など色々面白いので、是非wikipediaなどで見てほしい。

 

「暴動」(スライ&ザ・ファミリー・ストーン、1971年作)は同名のアルバムのタイトル曲だが、その長さが0秒という曲。バンド側は「いかなる暴動も起こってほしくないので表題曲には演奏時間がない」と説明している。CDでは4秒の無音トラックになっているらしいが、それでは意図が変わってしまうのではないか。

 

「Criminal Justice Bill?」(オービタル、1994年作)はシングルの中の一曲で、内容は4分の無音トラックになっている。これは同時期にあったダンス音楽に対する規制への抗議を示したものらしい。つまり無音トラック自体が「無音の抗議」とも言える。4分の長さ自体は特に意味はないと思われる。

 

今回の自分の場合は、「完全な無音ではない」とか「音楽として捉える」という点では4分33秒に近いが、長さについては定めていない(いつまでも聴き続けられるし、いつでも止めることができる)ので、独自の立ち位置になりそうだ。

 

 

 

ジャケットは、自分が寝る時の目線で見えている風景を撮影したもの。カメラの性能が良いので、オレンジ色のライトが思ったより広がって印象が強いものとなった。フォントはシンプルだけど存在感と説明感があるのを選んだ(要はいつも通り)。

実際の音楽が無い作品だが、このジャケットは唯一の実態となるので、その存在感に適したものになったと思っている。

 

 

 

この作品のアイデアは去年からあり、早ければ去年のエイプリルフールに公開することもできた。それができなかったのは、上記の説明がまだ具体的でなかったのと、何より勇気が無かった。今回は1年経ってある程度説明しやすい発想に固まったし、他の作品制作の合間の息抜きとしてこの文章の大部分を書くことができたので、今回の公開への具体的な動きへと繋がった。

 

 

 

実体がない作品で、単なる発想の提示に過ぎないが、決まった形があるという面白くなさも含めて、あくまで作品解説という体で自分なりに表現してみた。意味があるわけでもないが、UDLRなりの思想(汎用的な手法なので他に同じことを考えている人はいるかもしれないが)という事で何かしらの共感と興味深さを感じてもらえれば幸いである。

 

 

 

2023/3/30

UDLR